アトピー性皮膚炎(その1)・・・病態・スキンケアについて

病態

和尚:巷でもアトピーという単語はよく耳にするし、アレルギーの1種として市民権を得ていると思いますが、アトピー性皮膚炎てどういう病気ですか?私のような門外漢にもわかるように一言で教えてください。

院長:一言でいうのは非常に難しいのですが、誤解を恐れずにいうと「デリケートな乾燥肌と色々なものに対する過敏性(アレルギー)を起こしやすい体質を生まれつき持っており、その2つが合わさって治りにくい湿疹が次々にできる病気。」と考えられています。。

和尚:少しわかったような気がするような話ですね。それで原因は何ですか?

院長:世界中でその病体解明が進められていますが、現在のところ、まだわかっていません。家族に同じアトピー性皮膚炎や喘息、花粉症などのアレルギー疾患を持つ人が多いことは我々のような現場の医師の経験でも明らかであり、遺伝的な背景があるところまでは分かっています。また、メンデルの遺伝の法則に従うような、特定の遺伝子のみが関与する病気ではないことも分かっています。

和尚:大学の教官時代のクセがでますね。もう少し分かりやすくお願いします。メンデルというと高校の生物で習った豆を使った遺伝の法則のことですね。それで、どうして湿疹が治らないのですか?

院長:少し話が長くなるのですが聞いてください。本来皮膚は激しい外界の変化や微生物に対するバリヤーの機能を持っています。我々が垢と呼んで不潔なもの扱いをしているのは立派にバリヤー機能を果たしてくれた細胞のなれの果てなのです。そのバリヤー機能が乾燥肌の人では十分ではありません。そうすると何が起こると思いますか?

和尚:ますます先生ですね。うーん、外敵が侵入してくるかな?

院長:そうです。ただし、この場合はもっと広い意味で汗やホコリなどの刺激と考えてください。もっとアバウトにいうと傷口に塩水がつくとピリピリと刺激がありますよね?

和尚:昔、膝小僧のすりむいた傷が海水浴で痛かったことを思い出しますね。

院長:そうです。それが、小さな目に見えないミクロのレベルで起こっていると考えてみてください。そして、この状態がある程度継続すると、体は次の防衛システムである炎症を起動させます。これが皮膚においては、湿疹という状態であり、かゆくてジュクジュクしているというようにみなさんが表現します。

和尚:湿疹は私も何度か子供の頃になったことがありますが、母親にムヒとかウナコーワを塗られてすぐに治りました。なぜ、それが治らないのですか?

院長:そこで、もう一つのアレルギーを起こしやすい体質ということが絡んでくるのです。

和尚:やっとアレルギーの出番ですね。

院長:皮膚のバリヤーを越えて侵入してくるホコリ(ハウスダスト)などに体が過敏に反応するとどうなるでしょうか?

和尚:かなりひどい湿疹になりそうですね。

院長:その通りです。アトピー性皮膚炎の患者さんは身近にあるハウスダストやダニに過敏症を持つことが多く、周囲に常に存在するこれらのアレルゲンが皮膚のバリヤーが壊れたところから侵入し、ひどいアレルギー反応を引き起こすのです。

和尚:血を吸うダニですか?

院長:違います。ここで私の言うダニは血を吸うダニではなく、ホコリなどの中に生息しヒトのフケなどを食べて生きているヤケヒョウヒダニやコナヒョウヒダニを指します。

和尚:ヒエー!!聞いてるだけでかゆくなってきました。

院長:さて、ここまでまとめると皮膚のバリヤー障害とアレルギー体質の合わせ技でなおりにくい湿疹が多発するのです。

検査について

和尚:アトピー性皮膚炎ではアレルギー検査をすると聞いたことがありますが、具体的にはどんなことをするのですか?

院長:よくするのは血液検査です。特殊なアレルギー検査としてプリックテストやパッチテストがあります。

和尚:もう少し詳しく教えてください。

院長:血液検査では特に全身のアレルギー反応を反映する値である好酸球数やIgE RIST値に注目します。これらはアトピー性皮膚炎だけでなく花粉症など他のアレルギー疾患でも上昇しますが、少なくとも高値であれば体内で強いアレルギー反応が起こっていることが客観的なデータとして捉えられるわけです。

和尚:先ほど聞いたハウスダストとかダニのアレルギーを血液検査で捉える話を聞いたことがありますが・・。

院長:よくご存じですね。IgE RASTという血液検査の一つです。現在ではハウスダストやダニだけでなく食物や花粉など何十種類も調べることができます。こう言うと、すべてのアレルギーがこの検査で調べられる気がしてきますが、実際には擬陽性、擬陰性があるので全てわかるわけではありません。また現実問題として、調べる数が増えるほど採取する血液の量は増えるし、費用もかかってきます。

和尚:血をたくさん取られるのもイヤだし、お金も問題ですね。

院長:ですので、実際に患者さんがそのアレルゲンに対してアレルギーを起こしている疑いがあるのならば、診断の一つの手がかりとしてこの検査をするわけです。例えば患者さんが「部屋の掃除して少しほこりっぽくなるととてもからだがかゆくなる。」「友人のうちの猫を抱くと腕がかゆくなってくしゃみが出る。」といった訴えです。

和尚:でも、ハウスダストとかにアレルギーがあったとしても、通常の生活からホコリを完全になくすことはできないのではないでしょうか?私も作務で鍛えているので掃除のプロのつもりですが、いくら掃除しても無理と思います。

院長:和尚の指摘の通りです。完全にホコリをゼロにすることはできません。しかし、例えばハウスダストにアレルギーがあることがわかれば、部屋をきれいにすることを心がけたり、ホコリが多量にある環境を避けるなど対策をとることはできます。

和尚:アレルギー検査のついでに聞きたいのですが、子供の頃、アトピー性皮膚炎の同級生が卵を食べることを禁止されていましたが、今もこのような食事制限はされているのですか?

院長:現在はそこまではしないことが多いです。しかし、20~30年前には血液検査である食べ物に陽性が出ただけで制限することもあったと聞きます。例えば血液検査で卵に陽性が出たとします。でも、実際に卵を食べても症状が悪くならなければ、検査結果は擬陽性の可能性が高いので食事制限はしないということになります。ある特定の食物を避けるということは言うのは簡単ですが、実際におこなうのは非常に大変で負担です。また、成長期の子供に食事制限をおこなう場合、栄養学的な問題もあります。

和尚:私も仕事柄ベジタリアンですが、実際にはなかなか難しいので、よくわかります。また、医学上の必要で厳格に食事制限となると両親の苦労は大変だろうと思います。

治療

和尚:病気については分かったような気がしますが、肝心の治療についてはどうなのですか?子供時代の同級生の話などを聞いているとなかなか治りにくい病気という印象があります。

院長:非常に残念なことなのですが、二度と症状がでなくなるように完全に治す方法は現在のところ存在しません。根本的な発想としては、如何に副作用がなく症状をコントロールしていくかということになります。

和尚:どんな治療ですか?

院長:大まかにはデリケートな皮膚に対するスキンケアと湿疹に対する治療とに分けられます。

スキンケア

和尚:では、スキンケアとは具体的にはどのようにしていくのですか?

院長:先程も言ったと思うのですが、アトピー性皮膚炎の人は場合、健常人に比較すると乾燥しやすいデリケートな肌を持っていますので、この肌に対するスキンケアをしていくことになります。スキンケアと聞くと何か特別な薬を塗ったりするイメージがあるかもしれませんが、もっと根本的なことです。まず皮膚の刺激になるようなことはしないことです。ちまたで皮膚によいといわれている物や化粧品であっても、ヒリヒリした刺激感があるような物は皮膚につけないことです。

和尚:私の知り合いから市販の尿素軟膏がしみるとか、化粧水が顔にしみる言った話を聞いたことがありますが、そのようなことでしょうか?

院長:そうです。尿素軟膏は足の裏のカサカサには非常に有効な保湿剤ですが、小さな傷がある場合には刺激感があります。おなじ保湿剤でも皮膚の状態に応じた物を処方する訳なのです。他にも肌に刺激の少ない下着を身につけるというのも、意外に重要です。特に高価な下着を買う必要はないと思いますが、縫い目が刺激になる場合には裏返しに下着を着るというのも良い手と思います。下着の素材については好みもあると思うのですが、化繊は刺激感を感じる人が多いですね。綿は肌触りがよいと個人的には思いますが、洗濯の仕方にもよると思います。このような細かいノウハウは皮膚科専門医ならばよく知っていることなのです。

和尚:そういえば、私が修業時代に安物の洗剤を使って下着を洗ったときには、バシバシに堅く仕上がったことがあったが・・・。

院長:そのような洗剤はやめておいた方が無難でしょう?最近は低刺激の洗剤や柔軟剤も市販されています。色々比較してみて自分に合ったものを使うのがよいでしょう。一応、試供品を当院にはおいているので、和尚に一つ差し上げましょう。

和尚:ありがとうございます。ふんどしを一度これで洗ってみます。デリケートゾーンの皮膚は薄いと院長に聞いていたからね。

院長:・・・。

和尚:他には?

院長:そして、保湿剤です。保湿剤には市販されているものや皮膚科医が処方するものも合わせるとたくさんの種類があります。この中から、数種類試してみて、使い心地や刺激感を考えて、気に入ったものを使うのがよいでしょう。

和尚:といっても、院長が処方するような医薬品もあれば、薬局に行けば本当にたくさんの種類があるので、どれを使えばよいかわかりません。

院長:現在のところ、客観的なデータをもって優れた製品があると言う話は聞きません。私が今まで患者さんに聞いた範囲でも人それぞれの好みがあるようです。通常の白色ワセリンがよいという人もおられますので、パッケージや宣伝に惑わされずに、自分に合った物を探して使うのがもっともよい思います。当院にも全ての製品は無理ですが、私が自分で使ってみて使用感がよかった製品はサンプルをおいてます。和尚にもいくつか差し上げます。和尚は冬に手荒れがひどくなると聞いているので使ってみてください。

和尚:ありがとうございます。小さい寺ですが、作務が思いのほか大変で、冬は手がよく荒れるのです。夏は汗だらけになりますし・・・。そういえば、さっき言ったアトピー性皮膚炎の同級生が、運動後に汗をかいてひどくかゆがっていましたが、このような場合のスキンケアはどうすればよいのですが?

院長:さすが、和尚。昔から人が困っていることによく気がつきますね。アトピー性皮膚炎の患者さんは自分の汗にアレルギーを持つ人がいます。このような人の場合、運動して汗をかいた後、皮膚炎の症状が悪化します。

和尚:大変ですね。

院長:このような場合には、運動後には、石鹸を使わずに温水シャワーで汗を流すことが推奨されています。実際に小中学校でアトピー性皮膚炎の子供に、運動後に温水シャワーを継続して行ったところ、症状が軽快したとの報告がされています。

和尚:保健室や担任の先生も協力してくれたのですね。

院長:この報告ではそうですが、実際にはシャワーの設備の問題等、いろいろ解決すべきことはあると思います。しかし、運動後にシャワーを出来る場合にはした方がよいでしょう。手間は少しかかりますが、高価な器具も薬も不要ですので。シャワー後に保湿剤を外用出来ればなおよいでしょう。